エンジニアのキャリアを調べていると、必ずと言っていいほど目にするのが「SESはやめとけ」という言葉です。
ただ、この言葉だけが一人歩きしていて、なぜそう言われるのかが構造として説明されている記事は意外と少ないと感じます。感情的な体験談か、逆にSES企業側のポジショントークか、どちらかに偏りがちです。
この記事では、SESという働き方がどういう仕組みなのかを契約形態から整理したうえで、「やめとけ」と言われる理由を一つずつ検証します。そのうえで、どういう人には向いていて、どういう人には向いていないのかを考えます。
結論から言えば、SESが一律に悪いわけではなく、キャリアのどの段階で選ぶかによって意味が変わるというのが私の考えです。現に私はキャリアの最初からではありませんが、SESの働き方をしています。
そもそもSESとは何か
SESは「System Engineering Service」の略で、IT業界で使われる通称です。法的には準委任契約にあたります。
準委任契約とは、成果物の完成ではなく、業務の遂行そのものを目的とする契約です。つまり「システムを完成させること」ではなく「技術者として働くこと」に対して報酬が発生します。
請負契約・派遣契約との違い
混同されやすい3つの契約形態を整理します。
| SES(準委任) | 請負 | 派遣 | |
|---|---|---|---|
| 報酬の対象 | 業務の遂行(稼働時間) | 成果物の完成 | 労働力の提供 |
| 完成責任 | なし | あり | なし |
| 指揮命令権 | SES企業側 | 請負企業側 | 派遣先企業 |
特に重要なのが指揮命令権の所在です。
SES契約では、常駐先のクライアント企業がエンジニアに直接指示を出すことはできません。指示はSES企業の責任者を通す必要があります。一方、派遣契約では派遣先企業が直接指揮命令できます。
この違いが、後述する「偽装請負」の問題につながります。
「SESはやめとけ」と言われる5つの理由
理由①:待機期間が発生する可能性がある
SESでは、案件と案件の間に待機期間が生まれることがあります。
雇用契約自体は自社と結んでいるため、待機中も給与は支払われます。ただ、次の案件がいつ決まるかは、自分の努力だけでは決まりません。営業の提案、案件の需給、スキルとのマッチングなど、自分でコントロールできない要素に左右されます。
収入が途切れるわけではなく、給与をもらいながら自己学習に時間を充てられる等メリットもありますが、現場に出ている人と技術の差が開いてしまう・「次が決まらなかったらどうなるのか」という不安を抱えやすい面も事実としてあります。
理由②:案件ごとに面談がある
新しい案件に参画する際、クライアント企業との面談を通過する必要があります。
自社に所属しているとはいえ、案件が変わるたびに自分のスキルや経験を説明し、先方に納得してもらう必要があります。実質的に、小さな選考を繰り返し受けるようなものです。
これは正社員としてプロパーの立場でプロジェクトに入る場合とは、大きく異なる点です。
理由③:スキルが身につかない案件に当たることがある
SESの案件には幅があります。上流工程から任される案件もあれば、テストやマニュアル作成といった作業中心の案件もあります。
どの案件に入るかは、必ずしも自分の希望通りにはなりません。営業が提案してくれた案件の中から選ぶ形になるため、キャリアの方向性を自分で完全にコントロールするのは難しい側面があります。
理由④:常駐先での立場が不安定になりやすい
これは私が前職で実際に見てきたことです。
私は前職で、SESのエンジニアの方々と一緒に働いていました。そこで感じたのは、常駐先の企業にとって、自社のプロパー社員と外部のエンジニアでは、育成に対する姿勢が違うということです。
常駐先の企業からすれば、外部のエンジニアはいずれ契約が終わって離れていく存在です。そのため、時間をかけて育てるという発想になりにくい。結果として、すぐに戦力になる作業を任される傾向があります。
一方、私自身が前職でプロパーとしてプロジェクトに参画していたときは、育成のために時間を割いてもらえる場面がありました。同じ現場にいても、立場によって扱いが変わるという現実があります。
また役割はメンバーとなり、リーダーなど大事な役割はプロパーが担うこととなります。
これはどちらが悪いという話ではなく、契約の構造上そうなりやすいということです。
理由⑤:偽装請負のリスクがある
SES契約では、クライアント企業に指揮命令権はありません。しかし実態として、クライアントが直接指示を出したり、勤怠を管理したりしているケースがあります。
この状態は偽装請負と呼ばれ、法律上問題とされます。労働基準法違反や社会保険の問題につながる可能性もあります。
判断基準として挙げられるのは、指揮命令権の所在、労務管理の独立性、業務遂行の独立性の3点です。クライアントが直接作業指示や残業指示を行っている場合、実態が労働者派遣とみなされる恐れがあります。
すべてのSES企業がこうした問題を抱えているわけではありませんが、構造上リスクが存在することは知っておくべきです。
それでもSESを選ぶ理由がある場合
ここまで「やめとけ」と言われる理由を挙げてきましたが、SESにメリットがないわけではありません。
幅広い案件を経験できる
一つの企業にとどまる働き方と比べて、複数の現場・技術に触れる機会があるのはSESの特徴です。
同じプロジェクトに長く在籍すると、その環境で使う技術だけが深まり、スキルの幅が広がりにくいという問題があります。SESでは案件が変わることで、新しい技術領域に触れられる可能性があります。
未経験領域に挑戦しやすい場合がある
案件によっては、これまで経験のない技術スタックに関わる機会が生まれます。自社開発企業に転職しようとすると「その技術の実務経験」を求められることが多い一方、SESでは案件次第で経験を積める余地があります。
リモート案件の選択肢がある
案件の条件次第では、リモート中心の働き方が可能な場合もあります。これは常駐先の方針によるため一概には言えませんが、選択肢としては存在します。
所属企業が所有する案件によりますが、リモート案件を多く取り揃えているSES企業も存在します。(※ある程度のスキルがないとリモート案件を紹介してもらえない場合があるため、未経験の方は注意が必要です)
SESに向いている人・向いていない人
向いていない人
キャリアの初期段階にいる人
これが最も重要な点だと考えています。
新卒や実務経験が浅い段階では、腰を据えて育ててもらえる環境の方が伸びやすいと思います。前述の通り、常駐先の企業にとって外部エンジニアは育成対象になりにくく、教育コストをかけてもらえる可能性が低いためです。
自社開発企業やSIerでプロパーとして経験を積んでから、選択肢としてSESを考える方が、キャリアの土台は作りやすいはずです。
環境の変化にストレスを感じる人
案件が変わるたびに、現場のメンバー、開発環境、業務内容が変わります。この変化を刺激と捉えられるか、負担と感じるかで、適性が分かれます。
キャリアパスを明確に描きたい人
どの案件に入るかが完全には自分で決められない以上、「3年後にこうなっていたい」という計画を立てても、その通りに進むとは限りません。
向いている人
すでに一定の実務経験がある人
ある程度スキルが固まっている人であれば、案件選択の交渉力もあり、複数現場の経験が武器になります。
技術の幅を広げたい人
一つの環境に閉じこもるより、色々な現場を見たいという志向の人には合う可能性があります。
明確な目的を持って期間を区切れる人
「この技術領域の経験を積むまで」「次のキャリアの踏み台として」といった形で、目的と期間を意識して使う分には、有効な選択肢になり得ます。
転職先を検討するときに確認すべきこと
SES企業への転職を検討する場合、以下は確認しておくべきだと思います。
| 確認項目 | なぜ重要か |
|---|---|
| 待機期間中の給与保証 | 減額される企業もある |
| 案件の選択権があるか | 提案された案件を断れるか |
| 過去の案件実績 | どういう技術領域が多いか |
| 単価の開示があるか | 還元率の透明性 |
| 教育・研修制度 | 自社でのスキルアップ支援 |
| 退職金・各種手当 | 年収に表れない待遇差 |
最後の項目については、私自身が転職して初めて気づいたことがあります。詳しくは別の記事にまとめました。
そもそも自分の市場価値を把握しておく
SESに限らず、転職先を検討するときに前提として必要なのが、自分のスキルが市場でどう評価されるかを知っておくことです。
これを把握していないと、提示された条件が妥当かどうかを判断できません。私はこれができておらず、希望年収に届かないまま転職を決めることになりました。
まとめ
「SESはやめとけ」と言われる理由を5つ挙げました。
- 待機期間が発生する可能性がある
- 案件ごとに面談がある
- スキルが身につかない案件に当たることがある
- 常駐先での立場が不安定になりやすい
- 偽装請負のリスクがある
いずれも、SESという契約形態の構造から生まれる問題です。裏を返せば、構造を理解したうえで選ぶなら、対処のしようがあるとも言えます。
私自身の考えとしては、キャリアの初期にSESを選ぶのはおすすめしません。育成環境という観点で不利になりやすいためです。一方、ある程度経験を積んだ段階で、目的を持って期間を区切って使うのであれば、選択肢として十分に成立すると思います。
大事なのは「やめとけ」という言葉を鵜呑みにすることでも、逆に軽視することでもなく、自分のキャリアのどの段階にいて、何を得たいのかを基準に判断することだと考えています。
もしあなたの思い描いているキャリアがSESで叶えられるのであればSESは適した環境だと思います。環境は目的ではなく手段なので、そこは認識しておいてください。